「中国高速鉄道」の受注に向けて
ー「台湾高速鉄道」受注の教訓からー

             
国際ハイウェイプロジェクト推進委員会

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 今回の「台湾高速鉄道」受注で、一つ教訓として残ったものがある。それは、たとえ日本が世界に誇る「新幹線」方式の採用が受け入れられたとしても、「車輛」以外の高架・トンネル・軌道施設などの構造物全般については、「競争入札」方式が採用されたことである。幸い、今回の「台湾高速鉄道」の場合は、「車輛・電車線・信号・通信・運転システム」などの、「コアシステム」や、「レール・締結装置」などの、「軌道施設」は日本企業連合がほぼ全面受注に成功したが、「安全走行」など全体システムとしての「新幹線」機能を十分発揮できるための環境づくりという、視点からは再考をせがまれる、今回の受注であったといえる

≪初稿、2002年末 記≫    


                                台湾高鉄・駅構内の配線計画(略図)
 具体的な例として、「台湾高速鉄道」の場合、先行していた「仏・独」連合がもちいる設計荷重の「UIC」規格で土木構造物がつくられている。例えば、最大荷重は25.5t(日本の規格は16t)、トンネル断面は90m2(新幹線は64m2)ーーなど新幹線規格より多めに取られている。また分岐器にいたっては、日本の新幹線は加減速に優れているため、駅部での副本線への分岐は「18番」で十分である。しかし台湾高速の場合、分岐器を「33番」や「26番」を前提に、駅部の高架工事が行われたため、ドイツ製の「分岐器」を輸入している。−−「(財)運輸政策研究機構」HP、第22回「運輸政策セミナー」、「台湾高速鉄道プロジェクトの現況」参考
 ≪略図・出所:「台湾・高速鉄路建設のあゆみ」、UNDP鉄道工学専門家・斎藤雅男、「鉄道ジャーナル」、2005年12月号≫

 (参照):本欄「TGVの双単線方式
 
 それは今後の、中国あるいは東南アジア地域における「高速鉄道」受注の可否を左右する事柄でもある。たとえば中国の場合、まず高架・トンネルあるいは事によっては、路盤やレールなどの構造物全般に関するものは、おそらく威信をかけて自国の技術と人員を動員して、三交代体制で建設するものと思われる。したがって、土木構造物関係の受注(制約上、主としてコンサルタント業務に限られる)としては、難易度の高い設計・施工が要求される「長江」を横断する「長大橋」などが考えられる。つまり今後の焦点は、基本的な高速安全走行に必要な構造物建設(高架式路盤のスラブ化、電気・信号機器の設置など)に関する中国側の技術習得を促すことが、将来的には得策かと思われる。

 :当初、このように軌道施設面の建設は中国側が全面的に施工するであろうと読んでいたが、2004年末に至って状況が変化した。)

 それはすべて自前の技術力で、しかもコストダウンを計りたい中国当局としては、理の当然かもしれない。したがって焦点は、導入する「高速車輛」の形式となる。すなわち、軌道施設から電気・信号・車輛までを、ほぼ全面的に受注できた「台湾高速鉄道」とは異なり、中国の場合、前述したように、すべてにわたる受注は難しいと思われる。また、広大な国土を有する中国側としても、将来の全国「高速鉄道」網の原型(プロートタイプ)となる「車輛」形式(リニアモーターカーあるいは鉄道も含め)の選定には、慎重とならざるを得ない。

 したがって、中国の場合の「高速鉄道」導入形式は、「車輛」の技術移転をともなった共同開発(韓国方式)となるであろう(註2。またそのほうが、全面受注形式の「台湾方式」とは異なり、企業側としてのリスク分散(車輛の事故・故障など=例として韓国の仏製「TGV」導入が挙げられる)が計れるという、利点がある。

 註2:「韓国方式」、すなわちただ単なる「技術移転」をともなった「高速鉄道」受注の場合、韓国の仏製TGV受注後の対応にみられるように、思わぬ事態に遭遇する結果をもたらすことも考えられる。それは、トンネル通過に際して、車輛の技術研究(フランスのTGV自体トンネル通過はないものと思われる。ドーバートンネルに関しては、トンネル通過時速は180kmほどに押さえられている)を必要としなかったTGVがもたらした、諸問題などは別にしても、その対応策もあり、その後韓国は「韓国独自の技術(国産化率87%)により、最高時速350kmを達成した」と、報道(2002年3月13日)している。すなわち、韓国高速鉄道の場合、フランスの受注はTGV車輛の12編成(その他に、鉄道施設関連もあると思われる)である。わずか車輛の12編成で、TGVの車輛技術を移転して、挙句の果て、「韓国独自の技術(国産化率87%)により、最高時速350kmを達成した」などと発表されたのでは、製造元メーカーなどとしては、「元も子も」なくなる。したがって、ただ単なる「技術移転」をともなった「受注」は、中国高速鉄道の場合も、慎重な検討(例えば、「ライセンス契約」(註2-1)など)が要求されてくるものと思われる。

 (
註2-1:「北京〜上海」高速鉄道の軌道方式がなかなか決まらないなか、中国政府は、この問題について2003年6月20日から北京で論証を行った。その結果、「レール方式」か「リニア方式」のどちらの技術を採用するかについて、「テスト区間を蘇州の昆山に建設する」ことで決着した。この中で、「レール方式はリニア方式に比べ低いコストで信頼性も高く、中国が知的財産権をもち、使用料金を払う必要がないなど、メリットが大きい」と紹介している。中国政府としても、外国からの全面的な車輛導入は、軌道施設の莫大な建設費のみならず、割高な車輛購入とが重くのしかかるため、それは何とか避けたいところである。一方、車輛の受注等を狙う海外メーカーとしては、ただでさえも利益の少ない中国ビジネスに対して、車輛製造の「特許料」や「ライセンス料」などの名目で、利幅を稼ぎたいところである。したがって今後の受注の焦点は、双方の「利害」の折り合いをいかにつき合わせていくかに、移ってくる。それは、経済的にも、技術的にもいえることである。)


 「リニア」方式では「長江」の横断は不可能

 
いよいよ2003年春から試験走行が始まる「上海リニア」であるが、試験走行の結果を見てから「北京〜上海」間を結ぶ次世代高速機関の導入を決定するというのが、中国政府の公式見解である。しかし、この公式見解とは別に、中国の専門家の間では、非現実的な「リニア」方式の導入に対して、異を唱える者が少なからず現れていることは、真に理の当然といえる。かつて、韓国の鉄道技術者たちが、「新幹線」方式の導入に前向きでありながら、国策(国民感情)上、仏「TGV」方式の導入に至った経緯を、繰り返すことのない賢明な選択を中国技術者ならびに次期政権に期待せざるを得ない昨今である。

 
ところで、「北京〜上海」間を結ぶ「リニア」方式の最大の問題点は、超高速における「長江」を横断するのに要する渡河の技術的可能性といえる。特に、通過予定付近の「南京」流域は、上流域とは異なり、長江の川幅も広く、また船舶の航行も多数あるため、「橋脚」方式は難しく(註3、「吊り橋」方式となろうが(なお、「長江」横断の方式としては「橋梁」案のほかに「トンネル」案も考えられる。どちらかといえば「高速鉄道」の渡河方式としては、「トンネル」方式の方が現実的であり、より安全性が確保できると思われる)、浮上高がわずか「10mm」しかない「トランスラピット」型では、とても精度を保つことはできない。また、韓国の「TGV」方式同様、トンネル通過に際しては、車輛の機密性や耐圧性などに関しても、実績はない。

 註3:今回、建設された「上海リニア」実験線は、上海市内を東西に走る地下鉄2号線と連結している「竜陽路」と「浦東国際空港」を結んでいる(地図参照)。しかし交通の便を考慮すれば、「竜陽路」からさらに「黄浦江」を渡河して、市街地への延伸を進めたいところである〔註3‐1。しかし、独リニアの「トランスラピット」型でのトンネルあるいは橋梁による渡河技術はまだ確立されていないものとみえる。)

 (
註3‐1:ところで、地下鉄2号線については将来的には、「浦東国際空港」まで延伸される予定である。地下鉄2号線が全線開通した場合、上海市街地から「浦東空港」までは乗り換えずにすみ、「竜陽路」駅での「上海リニア」への乗車待ち時間等を考慮すれば、「リニア」線との時間差はそれほどなくなる。今後の展開次第では、「上海リニア」の存続自体が問われるやもしれない。)

 「リニア」方式のもう一つの欠点は、中国の「リニア」推進派も認めているように、軌道施設等を含めたトータルの建設費が鉄道(レール)方式よりも割高である点にある。例えば、現在建設が進行している
「上海リニア」(上海市街地〜浦東空港間、約33km)の投資額は約80億元(約1,200億円)といわれる「キロ」当たり換算すると約36億円になる)。これを中国国内の鉄道方式と比較してみると、−−「秦皇島〜瀋陽」間の新線建設費(200km/hに対応)が「キロ」当たり、「0.37億元」(約5.6億円)といわれる。これを新幹線規格に当てはめると、倍近くの0.77億元(約11.6億円)になると予測されている。したがって、「上海リニア」の建設費は、通常の鉄道方式の3倍ほど高額ということになる。「北京〜上海」高速鉄道(総延長約1,300km)の総事業費は約1,000億元(約1兆5,000億円)と見積もられているが、これは通常の「高速鉄道」方式での試算とみられる。これを「リニア」方式に当てはめると、およそ4兆7,000億円ほどになる。
 
(:「上海リニア」の最終的総工費は89億元〔約1,300億円〕に上る。)
 (
:「上海リニア」の線路舗装工事は、すべて現地で生産した舗装材を使用して、コストの軽減を図っている。したがって、今後の焦点は、ドイツ側がどれだけリニア車輛の技術移転に応じるかにかかっている。また、ドイツ側は「北京〜上海」高速鉄道における「リニア」化の可能性研究報告をまとめている、といわれる。)

 
今後の受注形式の焦点は、「鉄輪」形式、すなわち「高速鉄道」方式となるであろう註4,5。具体的には、仏の「TGV」方式は韓国の例からして、中国側が採用することは、まず考えられない。したがって最終的には、日本の「新幹線」方式と、独の「ICE」方式との競争となろう(この箇所の記述はその後における、中国の在来線高速化計画の採用により、大きく情勢が変化した。すなわち、この車輌選定において、ドイツの「シーメンス」社が「入札」に参加できなかったことである※※。この在来線の高速化車輌を最終的に受注した、日本企業連合と仏・アルストム社やカナダのボンバルディア社に、最終的な車輌選定が決定されそうである。しかしこのまま「シーメンス」が引き下がるとは考えずらい。まだまだ一波乱も二波乱もありそうである)。特に、独の「ICE」は事故後、車輪などの改良が加えられ、また牽引方式も「機関車」方式から「電車」方式へと転換が図られている。さらに経済支援についても、ドイツ政府は前向きである。

 
※※:しかし最終的にはやはり独・シーメンスが粘り勝ちしたようだ。具体的には、2005年10月に行われた「北京〜天津」間における高速鉄道の車両入札で60編成を受注した

 
註4:独紙「ウェルト」(2002年12月28日付)は、中国政府筋の話として、「北京〜上海」間で計画されている高速鉄道を「リニア」方式ではなく、「レール」方式で建設することがほぼ確実になったと伝えている。同紙によると、中国当局は独政府に対して、「北京〜上海」ルートの代わりに「上海・浦東国際空港」と浙江省の省都・杭州を結ぶ全長194kmを「リニア」方式で建設する計画を提示する方針という。−−「読売新聞」、2002年1月1日付

 (
註5:中国の英字紙「チャイナ・デーリー」は2003年1月24日、2008年の北京オリンピック前の開通を目指す「北京〜上海」間の高速鉄道計画に携わる専門家の話として、同鉄道はドイツが提唱する「リニア」式ではなく、「レール」式とすることが、近く決定されると報じた。その上で、「中国は独自の低コストな鉄道技術を開発した」とし、中国独自の車輛を採用する可能性にも言及した。)  


  (参照):「上海リニアの進捗状況

  (参照):「中国・高速鉄道運営の最新情報
       (提言:「北京〜瀋陽」間、「新幹線」方式の早期実現)

  (参照):「中国高速鉄道受注形態の他との比較


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