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将来的に、朝鮮半島の南北縦貫高速幹線道路および鉄道が開通し、往来ができるようになった場合、北東アジア地域(中国東北部、北朝鮮、韓国、日本、一部ロシア極東、モンゴル)の国際複合輸送体系は、どのようになるのであろうか(この時点での、日韓トンネルの建設・供用、および朝鮮半島の南北はまだ統一されていないものとする)。まず第一に指摘できることは、現時点における同地域の物流および人流は、前者に関しては船舶が、後者については航空がほぼ太宗を占めているということである。
中国・遼東半島近辺の略図
では、具体的に物流についてみてみよう。この地域で、現在最も多くの域内交易が盛んな港湾は、中国・遼寧省の大連港と思われる。それは第一に、大連市の経済開発区を中心とした日本、韓国、その他の諸国からの海外投資による企業誘致活動の一大拠点になっていることからもいえる(左記の地図参照)。
大連港の港湾取扱量をみてみると、2000年の年間取扱量は8,505万トンである。また、取扱貨物の特徴としては、
@ 鉱物、穀物、鉄鋼材、木材、国内コンテナ、RoRo船および雑貨(大港区埠頭)
A 石炭、穀物、セメントなど(甘井子埠頭)
B 穀物(専用バース有り)、鉄鋼材、木材、自動車、大型設備など(大窯湾埠頭)
C 原油(専用ターミナルバースが有り、年間取扱能力2,400万トン)、精製油、ケミカル製品など(新港油埠頭)
ーーなどが主である。
上記のように、北東アジアの拠点港ともみられる大連港(左記の写真参照)ではあるが、その主な取扱貨物は、石油や石炭、鉄鋼、穀物などといった、いわゆるバルクカーゴであり、その輸送上の特徴としては、船舶輸送が最も適していることである。
次ぎに、朝鮮半島の最南端に位置し、日本各地からの貨物輸送の需要が多い、釜山港を見てみよう。この釜山港の特徴としては、日本や東南アジアからのフィーダー船、あるいは大型コンテナ船などによる、北米・欧州航路へのハブ港としての機能を高めつつあることである。したがって、実際に同港からの域内の貨物輸送は、韓国内の貨物が太宗を占めると考えられる。
最後に、日本からの同域内への船舶による貨物輸送は、ほぼ全国各地の大中小の港湾から直接的に当該港へ輸送されているものと思われる。以上のように、北東アジアにおける域内貨物の移動は、ほぼ船舶輸送で占められている(一部、軽薄短小といわれるハイテク製品や、高級鮮魚・野菜などは航空輸送となっている)。
では、朝鮮半島の南北縦貫高速幹線道路が開通した場合の、北東アジア地域の輸送体系にはどのような変化がもたらされるのどあろうか(その場合の前提条件として、少なくとも北朝鮮内の高速幹線道路沿いの開城・平壌・新義州に、経済特区を中心とした各種の工業団地が形成されるものとする)。
中国の省・市別一人当りGDP(2000年現在)
まず第一に考慮されることは、同域内における中国の実体経済が、かなり大きくなっていることから生ずる事柄である。それは具体的には、北京、天津、大連などの経済深化の進んでいる地域、さらには中国全体が今現在より、経済活動においての諸経費(例えば、人件費、土地・建物・電力・用水などの各種賃貸料、あるいは法人税などの各種税率)が高くなっているであろうということである。それはすでに、上海などの外資系企業に勤めるホワイトカラー(事務系)、さらにはブルーカラー(工員)についても、賃金の上昇が始まっていることからも理解できる。したがって、この傾向は今後も、他地域に波及していくものと思われる。
そこで、浮上してくるのが朝鮮半島のまだ経済の揺籃期にある北朝鮮の存在である。国の指導者の意向ですべてが決まる、今の北朝鮮において、その経済動向を述べるのは意味がないかもしれない。しかし例えば、人件費については、一人当り「月額70〜80ドル」(羅津・先鋒地区)、平壌などで「月額100ドル」といわれる(註1)。これは、今の中国の工場労働者の「平均月給700〜1,500元(10,000〜15,000円)」に比べても安い。この傾向は、しばらく続くものと思われる。
(註1:例えば、KEDO(朝鮮半島エネルギー開発機構)が、北朝鮮東海岸の琴湖で、現在すすめている軽水炉工事の北朝鮮労働者の賃金を当初、月額110ドルであったが、北朝鮮側がこれを390ドルに引き上げることを要求したことから、ウズベキスタン人労働者が代わりに入っている。)
(註同:今後、開設が計画されている「開城工業団地」の賃金をめぐって、韓国と北朝鮮双方の思惑が露呈しだした。韓国側企業が考えている北朝鮮労働者の一人当たり適正賃金は「40〜50ドル」である。一方の北朝鮮側の労働者一人当たりの賃金は、経済特区の場合を「80ドル」、その他の地域を「110ドル」程度とみなしているようだ。)
たしかに、中国にも地方農村部からの無尽蔵の労働力供給が毎年繰り返されるという機能が内蔵されてはいるが、それにもまして外資系企業の参入は、すべての面で経済のコストアップ要因とならざるを得ないのが、現実であるといえる。また、その要因を知ってか、北朝鮮当局としても、人件費や所得税(註1-1)などを中国よりも低く押さえている面が感じられなくはない。
(註1-1:この度、設置された「新義州特別行政区」内における所得税率は「14%」に設定されている。)
以上のように、当面は北朝鮮における人件費やその他経費(法人税など)のコストアップ要因はないと思われる。しかしここで問題となるのは、今の北朝鮮国内における、社会全般にわたるインフラ(道路、鉄道、港湾、電力、燃料など)の未整備である。ここに、南北縦貫高速幹線道路沿線における経済特区を中心とした地域開発型経済の必要性が指摘できる。この地域を特区とすることの利点として、まず挙げられるのが、北朝鮮国内の電力不足に対して、開城や新義州はともに韓国と中国との国境に接しており、両国からの電力供給が可能である、という点である。
またなぜ、鉄道より道路を利用した開発の方が利点があるかといえば、
@ 初期投資(註2)はある程度かかるが、鉄道と異なり、電力供給や線路・架線などのような維持、管理が不要であり、経費削減が計れる。
(註2:例えば、2001年夏頃にロシア政府の鉄道専門家たちが、北朝鮮国内の鉄道路盤やトンネル、橋梁など現地調査をしているが、平壌からロシア国境までの改修費用試算として、22億ドル〔約2,900億円〕ほどかかると、報告している。しかし道路であれば、標準的国際価格で平壌〜新義州間〔約200km〕の概算はおよそ1,000億円ほどとみられる。しかもその後のメンテナンスは路面の補修ぐらいで済む。)
A 鉄道と異なり、貨物を目的地まで直接搬送する‘door to
door’により、積み替えが比較的容易であり、鉄道よりも料金の価格帯を引き上げられ、その分、通行料収入も増え、外貨獲得に寄与する。
では、今後の北朝鮮西海岸地域において、どのような産業立地が適するのであろうか。まず考えられるのが、原料や材料を海外から輸入しての家電や服装などの組立・加工の委託生産が最も適している、と思われる。この分野については、特に中国の得意とするものであり、家電やコンピュータなど、電子デバイス部品製造拠点の最先端地域として、中国南部珠江デルタに位置する広東や長江デルタの上海などが、その地位を不動なものとしている。
しかし残念なことに、中国の東北地域、とくに大連を中心とした地域には、この電子デバイス部品製造拠点の集積がそれほどなく、今後この地域でも、広東省や上海地域からの輸送に頼る構図が現れると思われる。その場合、両地域とも、使用する交通手段として考えられるのは、香港・上海と大連とを結ぶ船舶あるいは航空輸送となる。そして、それはさらに遼東半島の深部の港湾や空港である営口港や丹東港(註3)への輸送も同時並行的に行うことができる。
(註3:丹東市の南にある東港市の大東港(市街から40kmほどのところ)は、年間取扱能力が450万トンある。域内における開設航路として、主だったものに@丹東ー大連ー敦賀ー直江津のコンテナ航路、A丹東ー釜山のコンテナ航路、B丹東ー仁川のフェリー航路がある(左記の地図参照=ERINAより、一部事務局で変更)。
その場合、両港、とくに丹東港からの陸路による北朝鮮国内への輸送により、部品の供給と、加工・組立てられた完成品の輸送も同様に、陸路輸送(註4)を利用して丹東港などから海外へ輸出できる(註5)。したがって、北朝鮮の経済特区として、最も効力を発揮するのが、中国と国境を接する新義州であろう(付記参照=「朝鮮中央通信」は2002年9月19日、新義州の「特別行政区」への指定を伝えている)。一部には、開城の工業団地構想(註6)があるが、ここは初期投資がかかり、また開発主体の現代グループが分裂状態である。さらに、電力供給などのインフラ整備(註7)も不透明である。
(註4:中国と北朝鮮国境の交通インフラネックとして挙げられるのが、鴨緑江を跨ぐ鉄道〔単線〕と道路が併設している「鴨緑江大橋」(全長約900m=写真参照)の通過である。同橋梁は狭く鉄道と道路が輻輳しているため、大量輸送には向かない。したがって、ここも将来的にはもう一本の橋梁が必要となる。)
(註5:丹東経由の国際貿易(1998年)は、港湾が年間約230万トン、北朝鮮との鉄道貨物が約50万トンほどである。このように、遼寧省のなかにあっても、貨物取扱量がまだ比較的少ない丹東港ではあるが、中国東北地域と韓国・日本間の陸上・海上物流輸送の新しい拠点港としての、潜在的可能性は秘めていると思われる。)
(註6:なお、「開城工業団地」に関しては、早ければ2002年10月中にも「開城工業地区法」が制定・公布される計画であると、報じられている。)
(註7:韓国と北朝鮮双方は開城工業団地の運営に必要な電気・通信施設の整備を、事業施行業者の現代峨山と韓国土地公社が韓国電力、韓国通信と協議して供給することで合意した(註8-1)。通行・通関・検疫・通信は京義線鉄道・道路が連結された時点で南北が最終確定することにした。ーー第1回「開城工業団地建設のための南北実務協議会」、2002年11月3日)
一方、新義州は、北朝鮮のなかにあって、すでにある程度の産業集積と基盤があり(註8)、中国国境の都市、丹東には港湾機能が整っている。したがって、海外(特に、中国)からの原材料輸入によって、安価な労働力を用いた家電、服装などの組立・加工の委託製造による輸出拠点として、新義州の地理的重要性は深まると思われる。それは同時に、陸路の高速道路を通して、朝鮮半島南部の韓国あるいは遼東半島を横断あるいは縦断して、中国東北地方・モンゴル・ロシア極東との交易拡大にも寄与するーーという交通の要衝となり得る。
【平壤〜丹東、国際旅客バス運行開始】 北朝鮮の平壤と中国の丹東間を結ぶ長距離国際旅客サービスが2004年6月21日から運行を開始した。このサービスは土・日曜を除く毎日運行する。バス運行は中国と北朝鮮を往来する旅行者および観光客のためのもので旅行に必要な各種サービスと休息施設などが備わっている。運営は朝鮮ウルリム運送合弁会社と丹東の中国国際旅行社が当たる。
(註8:ここで注目されるのは、北朝鮮の中にあっても、この新義州は比較的産業基盤が整っているということである。例えば、電力供給問題のなかで、電圧の不安定さがあげられるが、電力施設の欠乏している北朝鮮の中にあっても、電力供給自体が可能なのは、鴨緑江の豊富な水源による水力発電の利用余地があるからだといえる(将来的に、規模の大きな発電用ダムの建設が望まれる)。また工業用水に関しても、同様なことがいえる。さらに電力の安定供給問題に関しては、将来的には中国からの「買電」も可能である(註8-1)。)
(註8‐1:中国側の丹東市(参照:本欄「丹東「鴨緑江沿岸開発区構想」)は「新義州特別行政区」開発に対して、支援する方針を固めている。具体的には、鴨緑江河口にある大東港火力発電所(出力75万kw)の余剰電力50万kwを支援する計画。代金は石炭などの現物出資が考えられている。送電方式は、鴨緑江の川底に送電ケーブルを敷設することで対応できる。これは北朝鮮への原油支援でも同方式が用いられている=〔なお最近、この中朝石油パイプラインに関する記事が「読売新聞」、2003年12月14日付で紹介されている。本欄の「中朝石油パイプライン、全長約400km」参照〕)
(註:なお時期はまだ早いが北朝鮮における電力・エネルギー不足の根本的な解決策としては、核開発の凍結・廃止と引き換えにロシアのシベリア・サハリン地域のガス・石油パイプラインの朝鮮半島への敷設などが考えられる=参照:本欄「朝鮮半島、ガスパイプライン敷設構想」)
(参照):本欄「中朝を跨ぐ「経済特区」新設の可能性」
(参照):本欄「朝鮮半島南北縦断鉄道の現状と課題」
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