【重工業化の発展戦略を模索する珠江デルタ】
将来的には、LNGで域内を効率的に集中管理
開発区の欠点:工場群の過度の分散を回避
ところで、この「珠江デルタ」地域における工業発展の根本的なネックは、電力や動力に必要な「エネルギー」資源に乏しいことである。西部や北部地域とは違い、山間部の少ない同地域は年間降雨量は豊富(註)でも、「水力発電」が難しい。また中国で今日でも主流となっている石炭による「火力発電」も産炭地からは遠く、輸送コストの増大や供給難に陥る可能性は他の地域よりもリスクとして高い。このことは、近年の「電力不足」として顕著に現れだしてきている。また最近指摘されだしてきたものに、安価な労働力の供給不足による「工場稼動力」の低下問題がある。これらの工業化に最低限必要な要素が今後、この「珠江デルタ」地域において賄えるかという疑問が以前から湧いていた。この疑問は、最近まで、顕著に進められてきた上海を中核とした「長江デルタ」地域においてもいえる。
(註:「年間降雨量は豊富」と記載したやさき、2004年の中国華南地方〔広東省・広西チワン族自治区、海南省など〕は54年ぶりの大旱魃になっているもよう。そのうち被害状況としては、中国南部で干ばつの被害を受けた耕地は5,330万畝(約355万ha)に達し、飲み水の確保が困難な人口は710万人、家畜は399万頭に上る。広西・広東・海南の3地区では、水不足が深刻な都市で給水時間・給水量の制限措置を取っている。農産物への被害も必至の状況。)
▼(出所:「日経産業新聞」、06/6/6)
だからといって、「工業化」をするなといっているわけではない。要は「工業化」するにも、その地域に適した「工業化」をするべきであろうということである。また今後、中国において「工業化」を進めるのであれば最低限、「電力供給」は@民生用とA工業用ーーとにはっきりと選別することが重要となる。さらに、多電力消費型の産業(例:自動車・製鉄など)は当然、百パーセントに近い「自己発電」設備を備える必要がある(註)が、そのほうが企業自身のためでもある。
(註:なお、今後「南沙」地区を中核として、どれほどの企業が集積するか定かではないが、製鉄所や自動車工場など、大規模な工場群が集まるようならば、液化天然ガス(LNG)を利用した域内の電力や熱供給などを効率的に融通できる計画的なシステムの構築が有効かとみられる。そのためには、工場群の範囲をあまり広めず、集中管理するほうが効果が高まる。)
【図の説明】 トヨタの広州工場は世界でもまれな高効率・高集積工場となっている。傘下の主要部品メーカー7社を工場周辺に集めた。特に、工場を隔てた部品メーカーとの間には2本のトンネルを敷設して専用台車で運搬、大幅な在庫削減(約1日分で済む)を達成している。
【広東省のLNG基地計画】
現在、広東省で建設が進められているLNGプロジェクトとして、深セン・大鵬湾から全長215kmのパイプラインを敷設し、 深センと広州・仏山・東莞の4都市にLNGを供給する計画がある。第一期事業として年間受入能力300万トンのLNG受入基地を深セン郊外の秤頭角に建設。2005年に運用を開始し、深センをはじめ広州など4都市にガスを供給するとともに、深センでは前湾で計画されている天然ガスコンバインドサイクル火力発電所(350MW×3基)および大亜湾恵州コンバインドサイクル発電所(1,000MW)にも発電燃料としても供給される予定。
(参照):本欄「広東省のLNG受入基地パイプライン敷設予定図」
(註:中国海洋石油総公司は広東省・汕頭市政府とLNG(液化天然ガス)事業で提携する。両者は「汕頭LNG供給ステーションおよびパイプライン建設プロジェクト」に調印。第一期事業では、LNG250万トンの供給ステーションおよび全長200kmのパイプライン建設を計画。ーー2004年10月)
(註:また隣接する自治体でもLNGの導入が進められている。例えば、広西チワン族自治区と中国石油天然気集団公司(中石油=Petro
Cina)は、「広西LNGプロジェクト」に関する協力協定を取り交わした。すでに関係者らによって、LNG専用バースの建設候補地として同自治区の防城港、欽州、北海鉄山の3港湾が視察されている。ーー2004年11月)
【広東省における電力事情】
広東省における電力事情を各種報道等の記載で調べてみると、「かなり厳しい」と結論付けられなくはない。基本的には、広州市を中核とした地域の居住人口が多いいことが基本にある。また小規模施設の石炭火力発電所が多くを占めているが、国の政策転換により、効率の悪い小規模石炭発電所の廃棄が進められている。省内で不足する電力は、現状では@香港やA豊富な水力発電の余力ある近隣の省(雲南・広西・貴州など)やB三峡ダムからの送電に頼ることになる。そのほかに、原子力発電所が稼動している。
【電力の送電計画ー近隣省】
雲南省・貴州省・広西チワン族自治区の境界地帯にある「天生橋水力発電所」から広東省に1,000万kwの電力を送る。天生橋水力発電所は1988年に広東省、広西チワン族自治区、貴州省政府などの合同出資によって、電力不足の広東省に電力を供給する目的で計画がスタートした。2001年に発電所が完成し、6月から広東省へ送電を始めた。
(註:貴州省から広東省に至る送電能力が1,120万kwを突破した(2004年11月)。さらに、第10次5カ年計画(00-05年)」期間中に、西部地域から広東省へ送電する1,000万kwの増加プロジェクトも始動した。これにより交流5本、直流3本からなる500kvの送電線8本が形成される。)
(参照サイト) :「中国の電力事情と発電計画」(2004年11月更新)
:「中国の区域電網の発電規模(2002年実績)」
(独立行政法人 科学技術振興機構(JST)ー原子力百科事典)
【電力の送電計画ー三峡ダム】
三峡ダム発電所は2004年2月から広東省への送電を開始した。送電量は81億6,000kw/h、最大出力は180万kw。これは国務院が決定した「2004年三峡発電所電力分配計画」の一部分となっている。長江三峡工程開発総公司では送電量を333億8,000万kw/hに引き上げる。「2004年三峡発電所電力分配計画」によると、広東省のほか、華中地域に82億3,000kw/h、華東地域に169億9,000万kw/hの送電が計画されている。
(註:三峡ダム発電所の2004年度における発電量は年初から11月までに333億8,000kw/hに達し、当初計画を230億kw/h上回る466億kw/hに達する見込み。これまでに水力タービン発電ユニット(70万kw級)10基による発電態勢を整えている。2004年はこれまで華東エリアの電力網に172億9,000kw/h、華中エリアの電力網に83億1,000kw/h、華南エリアの電力網に77億8,000kw/hを送電している。2005年には発電ユニット14基がすべて稼動する予定で、発電所全体の発電能力は年間980億kw/h、年間発電量は470億kw/hに達する見通し。)
(註:中国長江三峡開発総公司は、2005年における三峡ダム発電所の発電量が600億kw/hに達するとの見方を示した。国有資産監督管理委員会(国資委)は、三峡開発総公司に対して、実質ベースでの利益総額47.22億元、発電量618億kw/hという生産経営目標を設けている。国資委の生産経営目標に基づき、三峡開発総公司は、長江電力の二大発電所の発電量を640億kw/hと設定。そのうち、三峡発電所は486億kw/h、葛洲覇ダム水力発電所が154億kw/hとなっている。三峡ダム発電プロジェクトでは、中国の華中、華東、広東(カントン)省を含む華南地域などに送電されている。そのうち、華東地域への送電量は全体の5割を占める。広東省への送電量が全体の25%に達する見込み。)
【四川大地震による電力供給不足】
三峡ダ国家電力監管委員会(電監会)によると、2008年夏には広東省など中国南部を中心に電力不足が発生する見通し。全国的な電力不足には、四川大地震の水力発電に対する影響も関係するという。夏期の電力不足が深刻とみられるのは中国南部で、ピーク時には800万kwが不足。うち広東省では550万kw、貴州省は100万kw、雲南省は150万kwが不足するとみられる。四川省は増水期の夏にはこれまで、他省に向け100-150万kwを送電していた。しかし2008年夏には逆に、他省から200万kw程度を送る必要がある。このため、湖北、河南、江西の各省でも電力が不足するとみられる。地震の影響で四川省で多くの炭鉱が操業を中止したが、発電用石炭の不足は、夏までに解消される見通し。
【電力の送電計画ー原子力発電】
現在、広東省には嶺東地区に、「大亜湾」1、2号機(PWR:98万4,000kwが2基)と、「嶺澳」1、2号機(PWR:99万kwが2基)が稼動している。また新規の発電所(100万kwが2基)の建設が計画されている。
【中国における最近の電力事情に関しては、下記のサイトを参照】
(参照):本欄「深刻化する電力不足 成長見込みの甘さ」(「中国情報局」HP)
(参照):本欄「【提言】中国・東北地方こそ、経済発展の原動力」
(参照):本欄「自家発電装置」導入における諸注意」
(「中国産業レポート」、第18回緊急レポート<中国電力事情>より)
(註:広東省の2005年度における発電量は2,709億kw/h(前年同期比13.5%増)に達し、最大出力は4,500万kw(同13.4%増)に達すると予測されている。2004年1〜9月までの発電量は1,771億kw/h(同比18%増)に達した。広東省は今冬における電力不足をおよそ200万kw、また来年にかけてさらに150万kwの電力が不足するとの予測を出している。ーー2004年11月)
(註:広東省エリアの電力事情としては、2004年春先の「事例」(【中国・広東省】日系も困惑、異例の春先ピークシフト)がある。今冬(2005年)も、昨年と似たような傾向になる恐れは十二分にある。)
結論をいえば果たして、この「珠江デルタ」地域には「重工業化」が必要であろうか、ということである。今後、どれだけの企業が同地域に進出するかは現時点では定かではない(当局としては当初、日本から100社ほどを見込んでいるようだ)。しかし「上海デルタ」地域ほどの「工業化」(資源的・政治的・人為的など)への適応性はないであろう。したがって逆説的な捉え方をすれば、それほどの産業集積が見られなかった場合、原材料や部品については「自己完結」型の産業構造ではなく、地理的にも近い、東南アジア地域からの「輸入製品」で賄うことも十分範疇に入る。いずれにせよ、まずは@電力供給、A道路や港湾などの社会インフラ、さらにはB労働力供給ーーなどの解決がなくしては工業化の進展はなかなか前進しないであろう。
(参照):本欄「雲南省の高速道路整備状況」
ー次期有力代替地、ベトナム北部との連携ー
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