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中国政府は、数次にわたる五カ年計画により、21世紀における国家経済発展の礎として、35,000kmに及ぶ12(「五縦七横」=五本の南北幹線、七本の東西幹線)の主要自動車専用道路網(地図参照)の完成を、第9次5カ年計画(1996年〜2000年)において採択した。
このうち、四つの主要道路とは、下記の各地域を結ぶ、
@黒龍江省の同江と海南省の三亜との間
A北京と広東省の珠海との間
B江蘇省の連雲港と新彊ウイグル自治区の霍尓果斯(フォアグオス)との間
C上海と四川省の成都との間
また、三つの高速道路主要区間とは、
@北京と遼寧省の瀋陽(2000年9月全線完工
A北京〜上海(2000年12月全線完工)
B成都〜広西壮族自治区の北海(2001年12月全線完工)
――などを結ぶものである(参照:「最新中国高速道路網」)。
これらのうち、「三つの高速道路」の主要区間は、すでに2000年〜2001年にかけて完工している。したがって、ここでは、「四つの主要道路」のうちの、Cの「上海と四川省の成都(重慶)」間における各種輸送モード(特に、水運と道路)の現状について見てみる。
1)まず初めに、「水運」についてである。
ここでの「水運」とは、言うまでもなく「長江」を利用した船舶輸送を意味する。本来、この船舶輸送がスムーズに機能できれば、中国における中西部と東部沿海地域との経済発展格差は、それほど顕著なものとはならなかったであろう。例えば、欧米諸国は、近代工業化初期段階において、この「水運」、欧州における「運河」、北米におけるミッシッピー川等を利用した「水運」によって、工業化をもたらし、今日においても十分に機能している。
「長江」を運行する船舶 (重慶市)
ところで、中国における「長江」を利用した水運発展の問題点は、「長江」という河川の性質に大きく左右されることである。それは、
@年間を通じて、渇水期と増水期における水位差(武漢で20m、重慶で30m)が顕著で船舶運行が不定期とならざるを得ない。
A中国大陸の南北を二分する形で河川が流れているため、物流供給上、架橋の架設が多くなり、大型船舶の航行が難しい(南京大橋のクリアランスが、最大で4,000トンクラスの船舶)。ところで、1万トン級の外航船は南京まで、運行が可能である。
B渇水期と増水期の水位差からもたらされる「港湾機能」の低下による荷役時間の遅延増大。
【写真説明】 2005年冬季における長江・湖北流域の情況。50数年来で最も長い冬季の日照り(旱魃)で、長江の水位は低下している。長江・武漢市漢口の河辺では、多くの埠頭上の船舶は座礁している。
(参照):本欄「「三峡ダム」上流域の土砂堆積問題」
(註:その他に、@中小のバージが往来するため航路の確保が困難、A夜間航行ができない、B洪水期における港湾機能の麻痺ーーなどが指摘できる。)
――などが、挙げられる。
したがって、上海あるいは南京まで輸送された貨物は、ここでコンテナ専用バージ(20TEU積み)などで、宜昌(最大6隻運行)や重慶(最大2隻運行)などへ、曳航される(この場合、最大でも144TEU程度のコンテナ積載が限度となっている(写真参照:「長江上流域を航行する船舶」))。
(参照):「長江航行における船舶通過の問題」
また、今後の焦点となるのが、現在、建設がすすめられている「三峡ダム」の存在である。
@まず、「ダム」の下流域における水位の低下で、船舶の航行が難しくなる。
Aある程度の船舶は、「ダム」手前の宜昌などで、貨物の荷揚げがなされる(註1)。
(註1:しかし実際には、「ダム」堤体の左岸側に、「シップロック」と「シップリフト」が設けられる。「シップロック」は各五段のヤードをもち、1万トン級(一説には5万トン級もある)の船舶が航行可能。また、「シップリフト」は船を吊り上げる方式で、3,000トンまでの旅客船を迅速に通過させることができるーーという。
(参照):本欄「「三峡ダム」の全体計画概要」
ーーなどが予想される。
▼重慶長江第一大橋 (重慶市)
その場合、後に述べる「道路」部門とも関連するが、今後、整備がすすむ高速道路(成都〜上海間)の進展具合によっては、「宜昌」(参照:本欄「武漢周辺における輸送体制の整備」)が改めて、水陸のモーダルシフトの要衝として、注目されることも考えられる。また同時に、「三峡ダム」から上流域の重慶までは、ダムによって、水位が安定的に上昇するため比較的大型船舶の航行も可能(註2)となる。
(註2:湖北省周辺地域では、2003年6月までに完了する「三峡ダム」貯水後のダム上流域の水位上昇による大型船の航行を見越して、大型豪華客船の建造が進められている。2002年1〜9月期の観光客数は前年同期比20%増となっており、2003年はさらに多くの需要が見込まれる。)
この場合、「重慶〜三峡ダム」(約600km)間の大量輸送も考えられる。すなわち、現在、「重慶〜宜昌」間の船舶による年間単方向輸送力は1,000万トンほどであるが、これがダムの完成によって、5,000万トンにまでアップすると予測されている(ところで、長江を直接遡ることができる専用船として、イースタン・カーライナー社(本社:東京)が運行する「フォーチュンリバー号」(註3)が、1997年2月から就航している)。
(註3:全長93.9m、全幅18.0m、深さ10.2m、積荷重量トン数5,600トン。 20フィートコンテナ200個を積載可能、中央部にクレーンを2機搭載。バラストタンクを活用することで長江の水位に合わせ、喫水を2.5〜6.65mに調整することができる。約1ヵ月に一度運航する不定期航路。長江中下流域(南京、上海など)と神戸・横浜港を結んでいる。)
2)次ぎは、「道路」の運行である。
この「成都(重慶)〜上海」間の道路、とりわけ高速道路の運行を考える場合、まず頭に浮かぶのが「2,400km」(重慶〜上海間)という、距離の問題である。例えば、東京〜福岡がおよそ1,000kmであり、福岡〜札幌間をしのぐ長さとなる。果たして、これほどの距離をトラックで定期輸送することは、理にかなった選択なのであろうか(註4、5)。
(註4:中国は、全国高速道路網整備の進展によって、今後、観光をはじめとする長距離輸送の需要が大きく増大する見込みである。なかでも、トラック輸送による中西部を起・終点とする輸送は、期待が集まる。したがって今後の焦点は、交通インフラを十分に活用するためにも、輸送媒体であるクルマの側、とりわけ長距離走行に耐えられるトラックやバスのエンジン性能の向上は避けて通れない。)
(註5:トラック輸送の問題点として、@他の輸送機関〔船舶・鉄道〕に比べて運賃が割高、A信頼できる事業会社が少ない、B積荷の取扱が悪く、事故が多いーーなどが挙げられる。)
例えば、重慶に生産拠点を置く日系オートバイメーカーや自動車メーカーの部品供給は、現状では香港経由の鉄道輸送が主流である(参照:本欄「長江流域の鉄道網」)。その場合、一般的には「貴州経由」のルートが設定されている。所要時間は重慶・成都までが5〜6日(実際には7〜12日)程度を要する。このルートの利点としては、@トランジット・タイムは長いが、通関等のトラブルが少ない。A予約が取得しやすく、列車積載が比較的容易である−−などが挙げられる。なお鉄道で、上海から南京・武漢を経由して、重慶まで輸送する場合、5日程度を要する(その場合でも、少なくとも2日ほどの余裕をみる必要がある)。しかしこの場合、定時運行ではなく、随時運行となる。また成都向けはあるが、重慶向けは運行が少ない(参照:本欄「重慶周辺の鉄道連結状況」)。一方、武漢周辺にある繊維関連のメーカーなどでは、上海からの高速道路を利用したトラック輸送が増加している(参照:本欄「日本通運、中国内の物流網を強化」)。したがって、日系荷主企業が長江を利用するものとしては、鉄鋼などのスポット的な荷動きとなる。現状では長江水運の利用は、トランジットタイムが長く、日系企業のニーズに合致していないものといえる(なお、最近の長江流域における船舶航行の動きは本欄「重慶港=九龍坡埠頭」参照)。
武漢と重慶における各種取扱量 (単位:百トン)
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ー |
武漢市(1997年(註)) |
重慶(2000年) |
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鉄 道 |
5,000 |
2,900 |
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道 路 |
900 |
21,000 |
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水 運 |
2,200 |
1,400 |
(註:武漢市におけるコンテナ取扱量〔1997年〕は全体で16万TEU(20フィート換算)。
◇そのうち@水運が7万TEU、Aトラックが9万TEU、B鉄道が0.1万TEUである。
◇水運のコンテナ取扱量が比較的多いいが、これは上海からの回送される空コンテナも含まれているものと、見られる。
◇また中国においては、鉄道・道路におけるコンテナ化率はまだ低く、特に内陸部では一層顕著である。 |
長江流域都市の上海からの距離と船舶所要日数
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南 京 |
武 漢 |
重 慶 |
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上海からの距離 |
392km |
1,125km |
2,414km |
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上海からの所要日時 |
2〜3日 |
10〜15日 |
15〜20日 |
上海〜武漢間の輸送日数
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トラック |
水 運 |
鉄 道 |
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36(時間) |
10〜15(日) |
1(週間) |
上海から神戸までの所要日数は直航便で、2〜3日ほどかかる。
したがって、武漢ー(トラック)−上海ー(外航コンテナ船)−神戸間は、およそ5〜6日ほどと見られる。 |
上海ー南京高速道路 武漢長江大橋(武漢市)

〔註:上記の写真をクリックとすると「地図」が掲載されます〕
現在この区間は、すでに「上海〜南京」(約400km)区間の高速道路が開通している(参照:本欄「上海〜南京間の高速道路地図」)。さらに、「南京〜武漢」(約650km)区間も、安徽省内では「合肥」までが開通(参照:本欄「南京〜合肥間の高速道路」)。また江西省内では南下して「九江」を経由して「南昌」までが全線開通している。一方、「武漢」からは西進して「荊州」、さらに「宜昌」までが、それぞれ開通している(参照:本欄「長江流域沿いの各種輸送(道路・鉄道)ルート」)。
一方、「成都〜武漢」間については、「成都〜重慶」間(写真参照)がすでに開通。したがって、この「成都〜上海」間の未開通区間は、「重慶〜宜昌」だけとなる(参照:「重慶〜宜昌間の高速道路整備状況」)(註6)。そのうち、「重慶〜宜昌」(約600km)間においては、「三峡ダム」により、上流部がダム湖となることで、本格的な船舶運行が可能となり(註7)、この区間の陸路による輸送が代替されることで、その分、トラックなどによる輸送距離が短縮できる。したがって、少し無理をすれば「上海〜南京〜武漢〜宜昌」間(約1,800km)の陸路輸送が可能となる。
中国における企業興亡衰退の歴史は、最終的にはいかに「物流」「販売」「代金回収」などの一貫体制を、(自社で)確立できるかにかかっているともいえる。この体制をいち早く、中国の大手企業はすべての業種にわたってほぼ確立しており、これが今後、企業発展の原動力となっていくことは間違いない。これに対して、中国に進出している日本企業はまだまだその点が弱い。一部企業ではすでに、中国企業との「販売提携」関係を結ぶものも現れてきているが、すべての企業がそのような立場を推し進められるものでもない。
したがって今後いかに、この中国内における「物流」「販売」(「代金回収」)体制を確立していくかが、企業発展のカギとなる。特に、発展の要素を内在した中西部地域への「物流」体制の確立は欠かせない。今後の中国内陸部への物流輸送(内陸部から沿海部への逆の場合もある)を考える場合、まず第一に、最大で2,400km(上海〜重慶)という距離の問題がある。これを解決する方策として、高速道路・鉄道・長江水運とが交差する主要都市にトラック専用の「拠点ターミナル」を設置し(註8)、さらにそれらと道路・鉄道が相互に交差する「サブ・ターミナル」とを連結することで、商品の保管・発送などの流通面を効率よく、しかも木目細やかに展開することが考えられる(参照:本欄「中国内陸部の物流拠点構想」)。
(註6:なお、「重慶〜宜昌」間については、現在、「重慶」寄りの「梁平〜長寿」間の約110kmの高速道路が建設中である。(参照:本欄「重慶市周辺の高速道路整備状況」)
(註7:重慶市周辺地域の渇水期の水深は4mほどであり、下流域の上海との運行は現状では、120TEU型のバージ船が運行されている。この風景もダムが完成すると一変する。)
(註8:家電大手の「ハイアール」集団は物流センター(「ハイアール国際物流中心」)をスタートさせ、それを中核に国内42ヵ所に設置した配送センターのうち、主要都市については48時間以内に配送する体制を構築している。)
今後の焦点は、「三峡ダム」の竣工によってもたらされる「重慶〜三峡ダム(宜昌)」間の船舶輸送の最大限有効活用となる(註9)。中国政府は重慶港の重点プロジェクトとして、九龍坡コンテナターミナルの建設をすでに完了している(参照:本欄「重慶港=九龍坡埠頭」)。この新しいコンテナターミナルは、長江の水面から約30mほど高い段丘の上に建設されている。形式は従来と同様に浮ドック式クレーンでコンテナを持ち上げ、ガントリ・クレーンが装備されており、「40フィート」コンテナの稼働も可能である。350m長のバースをもち、一時期に2,500TEUのコンテナ蔵置能力がある(註11)。
▼渇水期の重慶市の川面 ▼重慶南駅・コンテナターミナル

(註9:ここでは船舶輸送を「重慶〜三峡ダム」間としている。しかし中国当局は1万トン級以上の船舶でも「三峡ダム」下流域の航行は可能だとしている。その一つの根拠として、「ダム」によって下流域の水位の上昇がもたらされるという。実際、どれだけの水位上昇があるかは定かではないし、また果たして水位上昇がもたらされるかは疑問である。たとえ水位上昇がもたらされたとしても、長江を跨ぐ多数の橋梁の船舶クリアランスは上流にいくほど低下する。現在の水位(渇水期・増水期とも)でも1万トン級の船舶の航行は難しい(註10)。)
(註10:したがって、この「三峡ダム」は、長江の洪水防止効果や電力供給の増加策などもさることながら、果たして、3,000〜5,000トン級の船舶が年間を通じて、長江上流域と下流域とを安定的に運行できるかにかかっていると、いえなくはない。現状では、増水期(6〜8月末)の長江沿岸の港湾機能は、麻痺状態に近く、抜本的な解決策を見出すのが難しい。)
(註11:重慶市九龍坡港の国際コンテナ埠頭の建設が完了(2000年12月18日)した。この埠頭は、長江上流で初めてのコンテナ専用で、今後、内陸の成都・重慶および、これらの鉄道沿線地域のコンテナ貨物は、この埠頭から直接出港できる。コンテナ専用埠頭は成渝(成都〜重慶)鉄道の九龍坡(重慶南駅)鉄路編成駅に隣接し、敷地面積は7.3m2、標準コンテナで年間10万個の処理能力(将来的には、120万個に引き上げる計画)と、年間通過能力が335万トンの施設を有する埠頭である(参照:本欄「重慶市の各種輸送機関ルート図」)。
【備考】 本欄「中国内陸部の物流輸送構想」
【長江流域の洪水情報】
●武漢市周辺、「長江」水位の変遷
●長江の洪水、非鉄金属企業の被害(「カレント・トピックス」、金属鉱業事業団HP)
●長江流域環境管理に関する国際共同研究(国立環境研究所編)
(注)中国経済の発展に伴って、工業化も次第に中西部地域に移行するなか、中国大陸を南北に二分する形で流れる「長江」流域の水害は、今後、海外進出企業にとっても企業存続の危機に遭遇しかねない。中国政府ならびに省政府による木目細かな「水害ハザードマップ」が待たれる。
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